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大ハリス・パピルス

 

Z.歴史の書

§397 導入
PL75-1偉大なる神ウセルマアトラー・メリアモン王(ラメセスV万歳!)は王子達や麾下の領主、歩兵隊や戦車隊、シルダーヌ傭兵や数多の弓兵隊、 2そしてエジプトの地に住む全ての民*1に言った。

§398 かつての混乱
聞け*2、予は予が(エジプトの)民の王であったときになし遂げた数々の善行を諸君に告げる。
3エジプトの地は[外から倒され*3]、全てのエジプト人は等しく彼の力の前に権利を[喪い]、何年もの間にわたり首長なしの状態が続いた。エジプトの各地に 4大小の土侯が並び立ち、貴賤を問わずその隣人を殺し合った。その後、なにもない空しい年が来て、ヤルス*4というシリア人が 5酋長*5として彼等を治めた。彼等はエジプト全土に貢納を課し、仲間達と語らってエジプトの*6土地と財産を奪い取った。彼等は神々を人のように扱ったため、神殿には何も捧げられなくなった。

§399 セトナクト王の支配
6しかし、神々が平和を望み、国を正当な支配と常なる風習[の許]に立ち戻らせようとした時、 7彼等はその玉座から全ての国々を治めさせるべくラーの息子ウセルカウラー・メリアモン・セトナクト*7(万歳!)を彼等の四肢から生み出した。 8彼は憤怒に駆られたケプリ*8・セトその人さながらにそれまで反抗的であったエジプト全土の秩序を回復し、エジプトの地に蔓延っていた反逆者共を殺し、 9エジプトの大いなる玉座を清めて、アトゥムの玉座にて2国の支配者(万歳!)となった。彼は[背けられた顔を用意させた]*9。全ての人々が幽閉された彼の兄弟*10を知っていた。 10彼は慣例法に従って神々に奉納をしようと、神々に捧げられた地*11に神殿を築いた。

§400 ラメセスVの昇進とセトナクト王の死
彼は予をケブ*12の地の皇太子に任命し、予はエジプトの国の偉大なる支配者*13にして、 PL76-11つに統一されたエジプト全土の支配者となった。彼は神々のごとく休息を取るべく地平線*14に向かい、オシリスのために用意されたのと同じものが彼のためにも用意され、川*15上を王の御座船で運ばれ、 2テーベの西*16にある彼の永久の住まいで休息に着いた。

§401 ラメセスVの即位
そして神々の主なる我が父アモン・ラー、ラー・アトゥム、美しき顔のプタハ*17は予を2国の王として即位させ、予を生んだ者の玉座に就かせたので予は我が父の地位*18を 3喜んで受け取った。そして(エジプトの)国は平和の内に憩い、予をまるでオシリスの玉座でエジプトを治めるために召喚されたホルス*19を見るように2国の支配者(万歳!)としてみた。予は 4ウラエウス*20の着いたアテフ冠*21を被され、タテネン*22さながらに双翼の冠を押し頂いた。予はホルアクティ*23の玉座に座り、アトゥム*24のごとく王権をあてがわれた。

§402 内部組織
5予はエジプトを王宮の執事や大王子、たくさんの歩兵部隊や戦車部隊といった何十万単位の階級に分け*25、シルダーヌ*26 6やケヘク*27の無数の(傭兵達)、1万人程の従者達、エジプトの地の農奴達までを配した。

§403 北方のアジア人との戦い
予は我が国に 7彼等の祖国から侵入した者達を討ち、エジプトの全ての国境を押し広げた。予は島々から来た*28ダヌナ人*29達を殺し、チェケル人*30とペレセト人*31は灰にされた。海に住むシルダーヌ人とウェシェシュ人*32は 8まるで昔から存在しなかったかのように(崩壊し)*33、一度に捕らえられ、捕虜として海辺の砂のように(たくさん)エジプトにつれてこられた。予は彼等を予の名にちなんだ拠点*34に定住させた。 9彼等の種族は10万ほど*35あり、数え切れないほどだった。予は毎年倉庫や穀倉から彼等に支給される全ての衣服や穀物に課税*36した。

§404 エドム戦役
予はセイルの地に住む 10シャスの民*37をうち砕き、彼等の住むテントを掠奪し、彼等の所有物を家畜を筆頭に無数に奪った。彼等は手足を縛られ、捕虜として、貢納としてエジプトに連れて行かれた。 11予は彼等を神々の社に下僕として与えた。

§405 リビア戦役
見よ、予は汝等にエジプトの地でなされた他の事共を語ろう。リビア人と PL77-1メシュウェシュ人はエジプトの地に住み着き、メンフィスからケルベン*38に至までのデルタ西部の海辺の諸都市を荒らし回っていた。彼等は大いなる川*39の両岸の土手*40に達していた。 2彼等はエジプトにいた間、長年に渡ってエグウォウェ*41の諸都市を荒らし回っていた。(しかるに)見よ、予は彼等をうち砕き、一度に殺戮した。予は 3メシュウェシュ人、リビア人、エスベト人*42、ケイケシュ人*43、シャイ人*44、ヘス人*45、そしてベケン人*46を滅ぼし、彼等は己が血溜まりの中に山と打ち倒された。予は彼等を 4踏みにじり、エジプトの国境から追い返した。予は予の剣が容赦したたくさんの者達を捕虜として連れ帰り、予の馬*47の前で鳥のように縛り上げ、(捕えられた)彼等の妻子は1万人、 5家畜は10万頭に及んだ。予は彼等の指揮官達を予の名の付いた砦に定着させた*48。予は彼等に弓兵隊長や族長を配し、彼等を奴隷にし、烙印を押し、予の名を彼等の心に刻み込み、彼等の妻子に対しても同様の処置*49を施した。予は彼等の家畜をアモンの家に連れて行き、それらは永遠に彼の物*50となった。

§406 アヤンの井戸
予は大いなる井戸を 7アヤン*51の地に築いた。(予は)それを周囲を砂岩の山のような20[層]もの基盤を持つ高さ30キュービットの銃眼付きの壁で囲ませた。その扉と側柱は 8レバノン杉を刻んで作られ、取り付けられた閂は銅で出来ていた。

§407 プント遠征
予は御座船や大いなる軍船を作り、無数の乗組員とたくさんの従者を配し、海兵*52隊長は監査官や下級官吏と共に船に乗り組んで彼等を指揮した。彼等はそれぞれエジプトの産物を1万にも及ぼうかという数え切れない量*53積み込んでいた。その艦隊は 10逆巻く海*54に送り出され、プントの国*55を訪れ、その間1隻の船にも災害が降りかかることもなく、安全に、恐怖に耐えて航行した。軍船や御座船は 11プント産の豊富な没薬*56を始めとするあらゆる驚くべき品々からなる神の国の産物を積み込んだ。神の国プントの酋長達の子等は先に 12エジプトへの貢納を差し出した。彼は持ってきた物を携えて安全に上陸し、コプトスの高地*57に帰り着いた。彼等は陸路ロバや人の背にたくさんの荷物を載せて進み、 13コプトスの港でナイルの川船にたくさんの荷物を積み込んだ。彼等は川を下り*58、祭りの最中に帰還し、(王)族に(プントからの)驚くべき貢納品の内幾つかの品を差し出した。プントの王子達は予に礼拝し、 PL78-1予の足許にひれ伏して口づけした。予は彼等全てをこの国の神々に捧げ、毎朝2柱の蛇の女神*59を満足させた。

§408 アティカへの遠征
予は我が使者を 2アティカ*60の国へ、その国にある大きな銅*61鉱山へと送り出した。彼等は海路ガレー船に、 3陸路ロバに乗って進んだ。(その鉱山は)諸王の御代以来*62聞いたことのない規模のものであった。それらの鉱山には1万隻のガレー船に満載できるほど銅が豊富に埋蔵されていた。 4それら*63は前もってエジプトに送られ、安全に到着した。それらはたくさんの延べ棒にされてバルコニー*64の下に山積みされ、 5金の3倍も輝かしい色彩*65を放っていた。予は全国民に想像を絶するそれらのもの*66を見ることを許した。

§409 シナイ遠征
予は執事達と官僚達を孔雀石の(産する)国、我が母、孔雀石の女王ハトホル*67の許に遣わした。その地では彼女のために、銀や金、王の亜麻やメク亜麻、その他多くの品が 7彼女の許に砂さながらに産する。その地から驚く程の量の混じりけなしの孔雀石が数え切れぬ程の袋に詰められて持ってこられた。それらは 8諸王の治世以来、前代未聞の量であった。

§410 ラメセスVの良き内政
予は(エジプト)全土に木と若草を植え、人々をその陰で暮らさせた。予は 9エジプトの女の[耳を広げ]*68、彼女の望む所へ行かせた。(なぜなら)異邦人もいかなる者も道中で彼女を手込めにしようとすることはない(からである)*69。予は歩兵や戦車兵を 10予の治世に(家に)帰し、シルダーヌやケヘクの傭兵達も故郷の彼等の町に帰り、背中を伸ばして寝転がり、何事をも恐れることがない。(と言うのも) 11クシュからもシリアからも敵が来ないことが判っているからである。彼等の弓や武器は彼等が満足し、喜びに酔いしれている間、武器庫の中で眠っている*70。彼等の妻は彼等と共にいて、子供達もその傍に付き従い、彼等は背後を振り返らず*71、(それどころか)その心は自信に満ちている。(なぜなら)予が彼等の四肢を守護すべく、彼等と共に臨んでいるからである。 13予は(エジプト)全土を生き続けさせ、(もはや)外国人か[一般]人か、都会人か田舎人か、男か女かという差は*72(全て意味がなくなった)。予はある男を逆境から救い出し、祝福を与えた。 PL79-1予は彼をより地位の高い*73迫害者の手から救い出した。予はあらゆる人を彼等の町で安全に暮らさせ、嘆願しに集まっている他の人々に生命を与えた*74。 2予は荒廃した土地を整備し、その地(に住む者)は予の治世の間十分に満足した。予は人に対してしたのに劣らぬ程神々にも善行をなし、 3更に予は全く[他]人を所有しなかった。予は2国に対する己が統治権を働かせ、一方汝等は予の足許に[・・・]なしで家来として仕える。汝等は 4予の心に叶う。なぜなら汝等は見事かつ熱心に予の指揮や命令をこなす*75からである。

§411 ラメセスVの死
身よ、予は(我が)父ラーのごとく休息をとるべく冥界に赴いている。 5予は天井や地上、更には冥界の神々とさえ交際している。アモン・ラーは世の息子を予の玉座に就け、彼は平和裡に予の宮廷を継承し、2国の支配者として 62地方のホルスの玉座に座っている。予はタテネンのごとくアテフ冠を被り、ウセルマアトラー・セテプアモン*76(万歳!)は自ら生まれたラーの長子として(君臨し)、ラメセスW・ヘカマアトラー・メリアモン、 7アモンの四肢より生まれた子供は2国の王として輝き、彼は真に(予の)息子*77であり、彼の父の心に叶っている。

§412 ラメセスWへの忠誠の勧め
彼の許に仕え、 8その足許に口づけし、ひれ伏し、あらゆる時において付き従い、礼拝し、彼の美を 9毎朝アモン・ラーに対して行うように褒め称えよ。彼の聖なる宮殿(に)年貢を納め、諸国からの贈り物を捧げよ*78。彼の指示に熱心に従え。 10彼が汝等に発する命令に。彼の命令に[従え]。さすらば彼の許汝は栄えるであろう。彼のためにあらゆる分野で働くが良い。彼のために記念碑を運び、 11運河を彫り、汝の手で彼の仕事をなすがよい。さすらば汝は彼の好意を享受できようし、彼から支給を毎日受けられよう。アモンは彼に地上を治めることを命じ、彼の生命を 12あらゆる王に(対して)2倍した*79。上下エジプトの2国を(完全に)治める王ウセルマアトラー・セテプアモン(万歳!)、ラーの息子にして二重冠の保持者ラメセスW・ヘカマアトラー・メリアモン*80(万歳!)は永遠の生命を与えられる。


※注釈
*1原語 "nḫ'w" は「軍隊の」と言う意味も含み、中王国第18王朝期から使われ続けている。
*2英訳は "hear ye!" だがBreasted曰くエジプト語では "hear we!" のようになっているという。
   ここは人称代名詞を使わない無難な訳をとる。
*3原語 "Ḫ⊂⊃" は「罰する」という意味も持つ。
*4原語 "yr-sw" シリア人の名かと思われるが不確かである。
*5「王子」とは解釈できない。
*6もしくは「エジプト人の」
*7セトナクト王の即位名
*8原語 "xepri" あらゆる可能性を持つ夜明けの太陽の形を示す。
*9もしかするとかつて追い散らされて隠れていた者達が再び帰ってきたと言う所かも知れない。
   アメニ碑文にも同様の表現が見える。
*10以前の混乱期にそのような事件があったのだろうか。対照史料がない以上不明としか言えない。
*11神殿の御料地と考えるべきか。或いは混乱の中失われた神殿の跡地に神殿を再建したのか。
*12エジプトの大地の神Gebのことか? とすると、エジプトの大地のことか?
*13原語 "r-ḥr" 英訳は "chief mouth" 。
   同様の表現がラメセスUのクーバン碑文にも見える。
*14王の死の詩的表現。
*15葬祭行列は通常川を渡る。
*16彼のミイラは王家の谷第14号墓で見つかっているが、後に盗掘を避けるため移されたと見るのが妥当。
*17この3柱の神はそれぞれテーベ、オン、メンフィスを示すと考えられていた。
*18「父」がセトナクトを指すにせよ、ラーを指すにせよ、ファラオの役職。
*19王は通常ホルスに結びつけられる。
*20王権の象徴とされる聖蛇。
*21神前での儀式の際に用いる冠。
*22原初の水ヌンより生まれた最初の大地、「原初の丘」の神格化。天地創造時代に生まれた原初の神々の一。
*23「2つの地平線のホルス」の意。
*24仕事を終えた太陽を示す。
*25恐らく社会的な階級ではなく、政府内での階級であろうが、そうすると何故「農奴」が来るのか不明。
*26ヒエログリフでは "š-r-d-n" 古代サルデニア島の住民のことか。
   アマルナ文書77では、"ši-er-da-nu"と表記されている。
*27不詳。リビア人か。
*28エーゲ海の島々か。
*29恐らくホメロスの言うダナオイ人。アマルナ手紙151でその王の死が言及されている。
*30ヒエログリフでは "ţ-k-k-r" 後にドールに定着。
*31ヒエログリフでは "pw-r-s-ţ" 聖書のペリシテ人に相当。
*32ヒエログリフでは "w" 不詳。
*33この顛末はメディネトは部費分に詳しく語られている。
*34恐らくカナンのどこかの要塞都市。後のペリシテ人のペンタポリスだろうか?
*35原文:classes 単なる誇張か?
*36或いは「負担した」
*37ヒエログリフでは "š-sw" ベドウィンの一氏族。 
*38現在のアブキル付近で、ギリシア名ヘラクレウム。アッシュールバニパル年代記では "karbaniti" 。
*39ナイルのカノポス支流。
*40もしくは「両岸に」
*41カノポス地区のことか。
*42ヒエログリフでは "(m)-s-b-t" リビア人の一種。
*43ヒエログリフでは "k-y-k" 
*44ヒエログリフでは "š-y(tp)" 
*45ヒエログリフでは "h-s" 
*46ヒエログリフでは "b-n" 
*47リビア戦役の浮き彫りと比較せよ。
*48海の民の時と同じく辺境で強制労働に就かされたのだろう。
*49奴隷の烙印を押すことなど。
*50メシュウェシュ人に対する勝利の感謝。
*51ヒエログリフでは "y-n" ヌビアのどこかだろうか。
*52もしくは「軍船の弓兵」
*53多いことを示す。
*54トトメスはユーフラテスを指して使うがここでは紅海やインド洋。
*55南東方向にあったとされる理想郷だが、公文書に出ていることから、ソマリ付近か。
*56プントはしばしば没薬と結びつけられていた。
*57コプトスは紅海への隊商路の出発地。
*58このことからラメセスVはテーベではなくナイルデルタに住んでいたことが判る。
*59エジプトの守護神、ワジェトとネクベトだろうか。
*60ヒエログリフでは "⊂⊃-ty-ka" シナイ説とアッティカ説がある。
*61原語:hmt James Breastedの翻訳だが、John Bailar等はアッティカに銅鉱山が見られないことから疑問視。
*62または「諸王の治世が始まって以来」
*63銅のこと。
*64ファラオが民衆の前に現れる時に使うバルコニー。
*65原文:being the color of gold of three times.
*66銅の延べ棒の山。
*67何故シナイと結びついているのかは不明。
*68自由に旅が出来るようになったと言うことか。
*69治安の向上を示す。
*70使われていないと言うこと。
*71恐れを示す動作。
*72しかし、PL1-6を見よ。
*73或いは「彼よりも身分の高い」
*74または「冥界から死者を救い出した」
*75もしくは「汝等は我が命令を満たす」
*76ラメセスW。
*77或いは「マアトの息子」
*78諸外国に対するものか。
*79皮肉なことにラメセスWの治世は6年程で終わる。
*80ラメセスWの即位名。

※出典:J.H.Breasted "Ancient Records of Egypt" 4:182〜412

※出典:Parts of the Great Papyrus Harris
※翻訳:私訳

※出典:「ラムセス二世 佑学社 1978年」頁
※翻訳:フィリップ・ファンデンベルク著 坂本明美+田島亘裕訳


 

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